日出学園の活動日記BLOG

人間と機械(倫理)#16~#24「哲学(前)」「生成AI」編

はじめに

人間とは何か?機械とは何か?人間と機械の今後の関係は?

このような疑問の答えを”探求”する、「情報Ⅰ」と「倫理」の学びを融合した学校設定科目「人間と機械(倫理)」を、日出学園では2023年度からスタートしました(以前は「倫理」として開講)。
4年生(高1)に履修した「情報Ⅰ」の内容を踏まえ、5年生(高2)の選択者が1年間学んでいきます。問題解決以外の視点から情報技術を扱うことは、情報科の学習の上でも効果的であると考えています(科目間の連携については、日出学園情報科を参照下さい)。

本科目では主に「心理学」や「哲学・宗教」の視点から「人間」「機械」の理解を深めていきますが、「人間と機械」「心理学」について学びを深めた後は、「哲学」「生成AI」を題材に、「人間と機械」の関係性の追求を行いました。

本ブログでは、各授業で取り扱った内容を紹介していきます。

#16~#20 ギリシャ神話・万物の根源・ギリシャの三大哲学者

「倫理」や「公共」の教科書でも詳しく扱われている領域です。これらの単元には、「人間とは何か?」を深掘りする哲学的思想の基礎が詰まっています。「公共」の既習事項も多く含む為、授業は全て20分間の説明+30分間のディスカッション形式で実施しました。以下は、テーマの一例です。
・ソクラテスが死を選んだのはなぜか?(相対主義とは? 単に生きるのではなく、善く生きるとは?)
・肉体は魂の牢獄なのか?(精神こそが優れているのか? 精神と肉体の関係は?)
アリストテレスは、すべての動植物には「栄養」の魂があり、すべての動物には「欲望」の魂があり、人間だけが「理性」の魂を持つとしています。アリストテレスだけでなく、ギリシャの哲学者たちは、ロゴス(論理)を重視し、人間の価値を「理性」に追い求めました。しかし、理性を追い求めれば追い求めるほど、人間とAIの境界は見えなくなってきます。魂(理性)」を重視した世界で、「AI」は人間足り得るのか?「人間」は人間足り得るのか?昨今話題の「生成AI」に実際触れてみることで、「人間と機械」の関係性を更に深掘りしていきます。

#21 生成AI(ChatGPT)に触れてみる


※ChatGPTの使用には、18歳未満の場合、保護者の同意が必要です。本授業の履修者は、全員が保護者の同意を得て、ChatGPTを使用しています。
まず初めにChatGPTの仕組みとガイドラインについて、情報Ⅰの内容を復習し、全員が次のタスクを実施しました。
1.ひとまず会話してみる(プロンプトの確認)
2.私は高校生です。◯◯について悩んでいます」の書き出しで、お悩み相談をしてみる
3.総合的な学習に対する問いを深めてみる(※東京都立高校教員の椋本先生の実践をお借りしました)
4.自身の志望大学に関する400字の自己PR書を作成してみる。この内容は、以後「プロンプト」と共に、クラスで公開する。上手に「プロンプト」を使いこなしているかがポイント。→誰の自己PR書を良いと思ったか投票も行い、上位者にはプロンプトのコツを紹介してもらいました。

生徒の感想


・なかなか思い通りに答えてもらえず具体的に指示を出すのがとても難しかった
・じぶんが質問攻めするのではなく、質問攻めされるのが大事だなと思った。
・自分の弱みと強みを最初に提示して、自己PRを作ってもらい、実体験ではない部分を自分なりに書き換えた。周りからの評判が高く、嬉しかったのでこれからも生成AIをうまく使いこなしていきたいと思う。
・自分で見つけられなかった大学を見つけてきてくれたし、自分の強みをちゃんと言語化してくれたのがうれしかった。

#22 テーマ①カウンセラーは人間であるべき?

実際に使いこなしてみた経験をもとに、テーマを設定して3つのディスカッションを行いました。
授業では、履修者全員に『機械より人間らしくなれるか?(ブライアン・クリスチャン,草思社)』の第4章「ロボットは人間の仕事をどう奪う?」を読んでもらいました。この中では、セラピスト・ボット〈イライザ〉の実際の会話と共に、当時の人間がイライザに如何に熱中したか、また実際のカウンセラーすらイライザを褒め称えたことが語られています。この本は著者のブライアン・クリスチャンが、チューリングテストに人間代表として参加する中で、「本当の人間らしさとは何か?」を突き詰めた科学ノンフィクションで、扱われるテーマはどれも非常に面白いです。
直感では「カウンセラー」こそ「人間らしい(=人工知能に奪われない)」仕事のように思えますが、果たして本当にそうなのか。「カウンセラーは人であるべき?」のテーマで、議論を行いました。

生徒の感想


・人間である必要性は必ずしもあるわけではないが、身振り手振りなどふわっとしたイメージを人間は理解してくれるが、AIは言語化が必須なので人間のほうが良いのかもしれない。
・ただ相談に乗ってほしいなら機械、解決したいなら人間など、場合によって相談相手を変えるのが一番いいと思った。
・カウンセラーは大部分をAIに任せるべきだと思う。なぜなら、人間が抱えられるものには限度があり、自らを守るために抱え過ぎないようにするためにはAIなどに任せる必要が有る。
・AIが医療ミス起こしたらだれが責任者になるんだろうとは思いました。
・共感を供給し続けるだけなら原因が存在し続けるため不安が再生産されてまたAI通いになるため、商業主義的に陥る事になる。
個人的には「共感を得たいのならAI、問題解決なら人間」という一見すると逆の解釈に、面白みを感じました。

#23 テーマ②人間あることをどう見抜く?主張する?

生成AIの登場により、「生成AIで書かれたことを見抜くツール」が各所で開発されたり、「生成AIの利用を禁止する」と盛り込んだコンクールやコンテストが実施されたりするようになりました。今後は、チューリング・テストでブライアン・クリスチャンが直面したように、「僕は人間だ!」と誰もが必死に主張し、読み解く側も「これは本当に人間か…?」と常に疑う社会が到来するのかもしれません。そもそも、生成AIを使って執筆することは良くないことなのでしょうか?
#22で生徒たちは、全員がChatGPTによる自己PR書を互いに読み合っています。この経験をもとに、「人間であることをどう見抜く?」について、ディスカッションを行いました。

生徒の感想


・全てをAIに任せるのはいかがなものかとは思うが、参考にしたりするのは既存のものを参考にするのと何ら変わりないのではないかと思った。
・使って良いが、人間独自の能力を確かめたいときなどはそもそもAIが使えないような環境を作る
・AIを使ったところで見抜くことができないので使っても良いと思う。
・きれいな文章を書かせるという意味での志望書や自己推薦書は無くなると思う。
・自分が経験したことや考えたことを自分の言葉で書くことによってその人がどういう人かがわかるみたいな概念があるから、それをAIにうまくまとめられちゃうのはちょっと悲しいような気がするけど、でも自分よりAIのほうが上手に伝えてくれるのならばそれでもいいのかもとも思う。

#24 テーマ③生成AIの出現は、人類にとって良いこと?悪いこと?(≒生成AIはどんな未来を作る?)

3つ目のテーマは、個人ではなく、社会全体・人類全体をテーマに生成AIの出現をどのように捉えるか、で議論しました。本授業内では、生成AIの未来を予期していたと言われる星新一のショートショート「肩の上の秘書」も読み合いました。

授業の最後には振り返りアンケートも実施し、授業前・授業後で生成AIに対する印象がどのように変化したかも聞いてみました。以下はその抜粋です。

基本的な哲学的思考について学び、最新の技術である生成AIと人間との関係性を考えたこれ以後、授業は宗教編に入ります。人間が「神」をどのように作り出し、体系化したのか。この人間独自の営みに触れることで、「人間とは何か」をより深めていきます。