人間と機械(倫理)#25~#39「宗教」「西洋哲学」「東洋思想」「人間と機械Ⅱ」編
はじめに
人間とは何か?機械とは何か?人間と機械の今後の関係は?
このような疑問の答えを”探求”する、「情報Ⅰ」と「倫理」の学びを融合した学校設定科目「人間と機械(倫理)」を、日出学園では2023年度からスタートしました(以前は「倫理」として開講)。
4年生(高1)に履修した「情報Ⅰ」の内容を踏まえ、5年生(高2)の選択者が1年間学んでいきます。問題解決以外の視点から情報技術を扱うことは、情報科の学習の上でも効果的であると考えています(科目間の連携については、日出学園情報科を参照下さい)。
本科目では主に「心理学」や「哲学・宗教」の視点から「人間」「機械」の理解を深めていきますが、「人間と機械」「心理学」「哲学のはじまり・生成AI」について学びを深めた後は、「宗教」「西洋哲学」「東洋思想」「人間と機械Ⅱ」を題材に、「人間と機械」の関係性の探求を行いました。 本ブログでは、各授業で取り扱った内容を紹介していきます。
#25~#27 「キリスト教」「日本思想の源流と日本神話」「諏訪神社訪問」
人間は「神」をどのように作り出し、体系化したのか。この人間独自の営みに触れることで、「人間とは何か」をより深めていきます。日本思想においては、実際に信仰の対象となる「諏訪神社」を訪問しました。諏訪神社の方の厚意で、今年は神社に関する講演も行っていただけました。この時期、諏訪神社では例祭の準備がちょうど進められています。普段と異なる学外での実習は、生徒にとっても良い刺激になったようです。
「宗教」を学んだ生徒達の感想
- ユダヤ教やキリスト教を知ることによって、自分の好きな作品を深く知れるのでとても面白かった(キリスト教)
- 今ある常識の中で矛盾や自分の疑問を解決しようと思う事がすごいなと思った(キリスト教)
- 今までは宗教は適当なものと思っていたが意外とちゃんとしていてびっくりした(キリスト教)
- 祟りとか穢れとかにちゃんと語源があったことに驚いた(日本思想の源流)
- 全体的に穏やかな雰囲気を感じた(日本思想の源流)
#28~#30 「西洋哲学編」
宗教的な考えが支配する世の中を「理性」が作り変え、人間や社会を「機械化」する。その流れに、人間はどう抗ってきたのでしょうか? 西洋哲学編では近代以後、「人間」がどのように定義されるようになったかを学びます。科学革命の中では、あらゆるものがシステムとして捉えられるようになり、人間もそのうちの1つでした。授業では「今、ここ」にいる自分を大切にしようとする実存主義哲学の誕生までを扱いました。
#31~#33 「東洋思想編」
西洋思想が最終的に辿り着いた答え(授業ではニーチェの永劫回帰を扱いました)に、東洋思想は初期から辿り着いていました。昨今、情報科学の領域でも「意識」を初期段階から説明していた東洋思想に注目が集まっています。また、仏教における「四諦」の考え方は、日頃「頑張れ!」「諦めるな!」と言われることの多い高校生にとって、「そういう考え方もあるのか」と意外に思える点も多くあります。
「東洋思想」を学んだ生徒達の感想
- 仏教思想は辛いときにとても救いがある考え方だなと思いました どの宗教の考え方も面白かったです
- 実際その通りだけど、自分は苦しんででも愛を求めたい。
- 愛の感じ方が宗教によって違うことに驚きました
- デカルトの「我思う、ゆえに我あり」は、仏教の「本当は自分なんてものはない」という考え方とベンジャミン・リベットの「自由意志」に関する実験の、意識はあとづけであって、本当は意識なんてものはないのではないかという仮説を組み合わせると「私が考えているから、私が存在する」=「意識なんてものはないから自分なんてものはない」と西洋と東洋で似たようなことを言っているのではないかなと思った。
#34~#36 「人間と機械編Ⅱ」
1学期の初期と比べ、心理学・西洋哲学・東洋哲学を一通り学んできた生徒達は、「人間」「機械」について多くの考え方を得た状態です。2学期の〆は「人間と機械編Ⅱ」として、今までの学びを「人間と機械」に集約させました。
#34【機械→人間】あたたかいテクノロジーLOVOT 〜ロボットに意識はある?〜
では、昨年度情報Ⅰの授業でも触れた「LOVOT」に再登場してもらい、「ロボットに意識はあるか?」のテーマについて議論しました。ホワイトボードに書かれているのは各班の議論のメモですが、学習内容を踏まえて非常に濃い内容となっています。
生徒達の感想
- 機械自身は持っていないかもしれなくても、こちら側の認識では魂を持つことをできるのではないか(LOVOT)
- 魂の定義が確定していないので難しいが、今の技術では魂が自然発生する条件を満たし得ないと思う。(LOVOT)
#35【人間→機械】技術はどこまで進歩して良いか? ~生命とは~
#35では、今度は#34と逆の視点で「生命倫理」を扱いました。技術は人間の生命を拡張し続けています。脳死や安楽死といった従前の教科書にあるテーマだけでなく、「デジタル死後労働問題(本人の死後、本人がデータの集積により蘇生され、労働する問題)」等についても話し合いました。
生徒達の感想
- 生きている間ずっと自分というものを作り続けているからこそ、誰のコントロールもされずに終わりたいと思った。(生命倫理)
- データとして残ってみたい。家族や友達のデータも残したいけど、本当にそういう状況になったらデジタルツインを見て切なくなっちゃいそう。(生命倫理)
#36【人間⇔機械】人間と機械の間で 攻殻機動隊 第2話「暴走の証明」/第15話「機械たちの時間」を考える
#36では、「人間と機械」をまさにテーマとした作品「攻殻機動隊」を視聴し、議論を深めました。攻殻機動隊では、電脳化によって人間の脳内活動を全て電気信号に置き換えることが可能になっています。しかしこれは、同じように電気信号で思考する機械に、人間のような魂が宿る可能性をも否定できないことになります。
生徒達の感想
- 技術の進歩は進んでいくのに対して宗教や人の考え方で不自由になってしまうことが増えてしまうのではないか(生命倫理・攻殻機動隊)
- 機械が自我を得た姿こそが理性の頂点に存在する生命なのではないかと思った。(攻殻機動隊)
- 心、というのは客観的には完全にはわからず、本人もきっと完全には理解できてないけど、理解してあげようとしないと、分かり合えることはないということを改めて思った。(攻殻機動隊)
担当者も手探りのまま続けてきた「人間と機械」ですが、それなりに形としてまとまったのではないかと思います。
3学期は1・2学期の学びを踏まえた探求活動として、生徒1人1人が15分、全員に授業を行う予定です。生徒達の倫理的探求の成果が今から楽しみです。